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男子が厨房に入る際の心得

 男性が太る時は人生の節目に重なることが多いことをご存知でしょうか。一つは結婚したときで、所謂「幸せ太り」というだけではなく、仕事にもそれなりに慣れてきて、アフターファイブの接待なども増えてくることが原因です。もう一つは退職後。何もせずに朝から夕まで自宅で過ごすことによる運動不足が祟ります。

 今回はその辺のことについて考えてみました。

 いつも朗らかで明るい女性患者さんが珍しく浮かぬ顔を見せるので、「何かありましたか?」と尋ねてみたら、苦笑しつつ「退職した主人が一日中家に居るので、もう息が詰まってしまって。」とのお答え。根っからの会社人間だったご主人には特段の趣味も無く、朝からずっと居間でゴロゴロしつつテレビを観ながら過ごしているのだという。居るだけならまだ許せるけれど、一日3食しっかりと食事の準備を要求してくるのが腹立たしいとのこと。企業戦士として長年過ごしてきた男性の生活基盤は会社にあり、退職後は居場所も肩書きも、交友関係すらも一切合財剥奪されてしまい、茫然自失の状態と推察される。一方の奥様には、ご近所ネットワークやらママ友以来の付き合いだとか趣味の講座など、実に多彩な繋がりが出来上がっているから、今更夫の世話などに割く時間は無いというのが実情だろうか。「濡れ落ち葉」、一昔前に退職後の男性を揶揄した言葉を思い出した。いやはや同じ男性として、他人事とはとても思えない。ここは何とかご主人を援護できないものかと考えてみた。
 まずは朝から一日中居間のソファーでゴロゴロという生活パターンからは一日も早く脱却して頂かないとならない。極端な運動不足とカロリー過剰で、数ヵ月後には体重が数キロ増加することになる。足腰も弱ってしまい、転倒のリスクが高まる。骨折でもしようものなら、それこそ奥様のお荷物になって、下手をすると粗大ごみ的な扱いを受けてしまう。とにかく外出すること。街には図書館、博物館、美術館やカルチャーセンターなど数多くの知的好奇心を満たしてくれる施設が溢れている。スポーツクラブやスポーツ品店が主催するハイキングや近隣の山登りも多彩であり、アウトドア派にはお勧めだ。
 インドア派で、何処にも外出したくない向きにはぜひ料理をお勧めしたい。せめて自分の昼食ぐらいは自ら包丁を握って準備しよう。そうすることで奥さんを日中家に縛り付けることがなくなる。とはいっても厨房は奥様の聖地であるから、そこに出入りする際にはそれなりのマナーがある。男の料理が奥様連中に不評である理由には大きく二つあるのだが、ご存知だろうか。一つはキッチンを汚してしまうこと、そしてもう一つは、多くの男性が後片付けをしないことである。男の料理というものは作って相棒に食べさせて満足して頂き、最後はきちんと後片付けまでするのが大事なルールだ。だから男子が厨房に入る前には幾つかの下準備というか予習が必要なのだ。まずは厨房で動く奥様を詳細に観察して、調理器具、鍋類や調味料の在処を把握しておくことが何を措いても大切である。調理中にあれは何処だ、それを取ってくれなどと決して言ってはいけない。そんなことを言うから、「却って忙しくなるから、もう止めてください!」との駄目出しを食らう。次に大切なことは包丁やまな板、ボウル、お皿の類は使ったらすぐに洗うこと。シンクに積み上げていくと、とたんに乱雑で不潔なキッチンになってしまう。作りながら片付けることが鉄則。洗い物を溜め込むとどうしても面倒くさくなってしまい、後ほどお酒が入ったりすると眠くなり、つい放置ということになりかねない。そうすると結局は奥さんの手を煩わせることになる。それから食器洗いの際にも覚えておくことがある。油汚れのひどいものや生ものを入れた食器はなるべく最後に洗うようにする。そうしないと全ての食器が油でニキニキしたり、生臭くなってしまう。特にグラス類はよほど注意しないと、臭いが移る。以前老舗の料理屋で口を付けたビールの一口目がとんでもなく生臭くて閉口した経験があるが、最初が悪いと、もうその後は何を食べても飲んでも全てが生臭くて駄目になるものである。だから出来ればグラス類は専用のスポンジで洗いたいものだ。
 いまは「男の料理」を特集した番組や、料理本がたくさんあるので、ぜひ研究してレパートリーを広げて欲しいとおもう。繰り返しになるが、まずは自分の昼食を用意することから始めて頂きたい。そうすることで奥様の負担を随分と軽減できるのではと考える。最後にぼくが作る定番のメニューレシピを紹介したい。「パエリア風洋風焼き飯」とでも命名しようか。まずは玉葱をみじん切りにする。3個分ほど、たっぷりと使いたい。ベーコンと大蒜を加えてひたすら炒める。あめ色になったらトマトジュース、トマトピューレを加えて煮込む。同時にタラ、鶏肉、ホタテ、海老などお好きな具材を塩コショウしてからオリーブオイルでソテーしておく。あとは煮込んだ鍋のなかにお米を研がずにそのまま投入。しばし煮込んだ後、ソテーした具材を乗っけて鍋ごとオーブンに。温度も時間も適当でいい。まあ40分も経過すれば水分が飛んで、炊き上がる。水分が足りなければ「アルデンテに仕上がったよ。」と言えばよいし、水分が多すぎたら「リゾット風に出来上がりました。」と誤魔化せばよい。まず失敗はしないから心配しないで挑戦してみて頂きたい。そして間違いなく美味しいから、きっと奥様も喜ぶこと請け合いである。くれぐれも、後片付けまできちんとすることをお忘れなく。