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風邪のお話

 だいぶ寒くなってきて、冬の風邪が流行しています。まだインフルエンザはブレークしていません。この時期になると風邪症状を訴えて受診される方々が多く、少なくない方々から注射や抗生物質の処方を求められます。
 残念ながら風邪を一発で治す薬は飲み薬も注射薬にもありません。風邪は時間が来ないと治りません。

 今回はその辺の知識を整理して頂くために一文を書きました。少し高圧的に感じられるかもしれませんが、日本の厳しい医療情勢を考えると、風邪などの軽症疾患で我々一人ひとりが受診を控える努力をしないと、早晩日本の医療は行き詰る可能性があるのです。真意をご理解ください。

 寒くなってきて、今年も風邪が増えている。頭痛、咽頭痛、関節痛そして咳と鼻汁。これらの症状は確かに煩わしいものであるが、それぞれにきちんと意味がある。発熱は感染している細菌やウイルスの増殖を抑える働きがあり、咳や痰は肺に溜まった分泌物とともに細菌などを排出する意味で重要だ。下痢にも腸内の毒素等を一刻も早く体外へ排泄させる目的がある。関節痛は我々の体が安静と休養を求めているサインだ。つまり風邪の際に我々が感じる不快な症状のいずれにもれっきとした理由と目的があるのだ。そう考えると、これらの症状は我々の体にとってむしろ有益で、治癒に向けて体が頑張っている証拠と考えることが出来る。
 多くの人が風邪を引くと薬を飲む。少なくない人たちが抗生物質を求める。残念ながら風邪のほとんどはウイルス感染によって引き起こされるものであり、抗生物質は全く効果がない。効かないだけならばまだしも、残念ながらかなりの率で副作用が出現するから厄介である。例を挙げると抗生物質による下痢は最も多く見られる副作用であり、その他薬疹や女性の外陰部炎膣炎等も良く経験する。必要のない抗生物質を飲んだばかりに想いもよらぬ副作用に見舞われ、その対策にまた薬が必要になるという悪循環に陥る。笑いが止まらないのは薬を大量に処方する医者と製薬会社という構図だ。
 風邪の場合、ほぼ全例が自然に治癒する。各種の薬を飲んでもその経過はほとんど変わらない。治癒するまでにはおおよそ1週間の期間が必要だ。飲んでも飲まなくても同じなら、わざわざお金と時間をかけて病院に来ることは無い。長時間待たされて、尚いっそう具合が悪くなるかもしれない。風邪薬は風邪を治せない。そしてやはり数多くの副作用をもたらすから注意が必要である。咳止めは便秘を招き、あるいは強い眠気を来す。鼻汁に対して処方される抗ヒスタミン薬も同様で、判断能力、認知能力の低下から自動車事故を起こすことだってあり得る。解熱鎮痛剤は胃潰瘍の原因となり、あるいは肝機能、腎機能障害を起こすこともある。つまり風邪薬にはその利点よりもむしろ欠点の方がもしかすると多いかもしれないのである。
 もちろんごくたまには風邪を機に種々の病気が合併、進展するケースもある。所謂「風邪を拗らせた」場合だが、それらの多くはご高齢であったり、重度の糖尿病が隠れていたりといった何かしらの原因があるものである。数日安静にして様子を見ても改善傾向に無い場合やどんどん症状が悪くなる際には受診が勧められるが、そのようなケースはそれほど多くない。
 繰り返しになるが風邪のほとんどは自然に治癒するからほとんどの場合で通院、治療は不要である。現在風邪の治療に費やされている医療費は年間4000~5000億円だが、これらのほとんどは浪費されていると言っても過言ではないかもしれない。一人でも多くの人が風邪の実態を理解して受診を控えれば、高騰が続く医療費のいくばくかを抑えることができるだろう。
 風邪をひいてしまったら、昔から言われている如く温かく安静にして栄養価の高い消化の良い食べ物を摂り、休養を十分に取ることが正解だ。とは言ってみたものの、我々は風邪を引けば気持ちが萎え、不治の病では?などと良からぬ想像をして不安になるものである。だから心配だったら受診して頂いてもちろん構わない。きちんと診察して所見を取り、風邪の診断を確定して、懇切丁寧にアドバイスさせて頂くつもりだ。ただし注射一本で明日までに治して欲しいなどという無理なお願いはしないで頂きたいと思うし、処方される薬が少なくても、抗生物質が無くても心配しないで欲しいと心からお願いする次第である。
 何度でも言おう。風邪には飲み薬も注射も本来不要で、必要なのは安静と休養である。