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運動療法についてのあれこれ

 日曜日、知人に誘われて初夏の登山をしてきました。目指したのは雁戸山。笹谷峠に車を停めて、全行程往復5時間の山登りでした。日頃からウォーキングやジョギングを心がけていたので大丈夫かなと思っていましたが、今上腕部や大腿の筋肉痛が結構あるので、思った以上に運動量が多かったようです。運動の種類によって使う筋肉が異なるので、色々な運動を取り交ぜて行うことが健康増進にとって理想的なことかもしれません。今回は知っていそうで実は知らない運動療法について書いてみました。

 現在多くの人が自らの運動不足を実感しており、何とかしなければと思っているのではないでしょうか。その証拠に市内随所にあるスポーツクラブの駐車場はいつも満杯で、健康維持のために運動が大切であることは既に皆さんの共通認識になりつつあるのかもしれません。しかしながら運動と一口に言っても、いったい何をどの程度行えば効果的なのか、ただとにかく歩けばよいのか、その辺りの情報に確固たるものが得られない人が多いのではないでしょうか。そこで今回は糖尿病や高血圧といった生活習慣病に対する運動療法について、ほんの少しだけ科学的にご説明しましょう。
 運動不足が人間の健康に与える影響は大変深刻で、一説には全世界における年間死亡の実に一割が運動不足に関連していると言われています。運動不足が関与する疾患としては糖尿病、脂質異常症など比較的分かりやすいものばかりでなく、乳癌、大腸癌などの悪性腫瘍、更には慢性心不全なども挙げられています。驚くべきことに、運動不足が我々に与える影響は喫煙や肥満とほぼ同等とする説もあるほどです。そしてここが大切な点ですが、運動不足への対策として、もし仮にほとんどの人が実行可能な毎日15~30分のウォーキングを行えば、公衆衛生上大きなメリットがあるとする論文が多いのです。つまり運動療法といってもそれほど大上段に構える必要は無く、やはり「とにかく歩け!」が正しいということになります。何だ、やっぱり結論はそれかよとのご批判が聞こえてきそうですので、もう少し詳しく説明しましょう。
 運動療法を理解する上で必要な知識がいくつかありますのでご紹介します。運動の強さを表す単位であるMETs(metabolic equivalents)は、その運動強度が安静時の何倍に相当するかを表します。安静座位を1METsとし、普通歩行は3METs、ジョギングは6METsなどという具合に決まっています。一方運動の量を表す単位がEx(exercise)で、METs×時間で表されます。つまり普通歩行を1時間行ったら3METs×1時間で3Ex、ジョギングを30分行ったのであれば6METs×0.5時間で3Exとなるわけです。そして我々が行うべき運動の理想量は1週間に23Ex(その内4Exは3METs以上の運動が望ましい)が推奨されているのです。1週間に23Exですので、1日換算では3~4Exです。つまり毎日1.5時間ほどのウォーキングが求められるということで、普通の大人であれば1.5時間でほぼ8000歩程度でしょうか。健康増進のためには1日8000歩という推奨の根拠がここにあるのです。
 運動は何を選んでも構いません。しかしちょっと考えれば、相手を必要とするスポーツや、大勢集まらなくては出来ない団体競技は不向きであることはすぐに分かりますね。毎日一人でも出来る運動が望ましい訳です。そうなるとやはり最も簡単なのがウォーキングやジョギングということになるのです。ただ毎日のことですので、いかに飽きずに継続するかが大切です。毎日同じコースを歩いたり走ったりしていると、ほぼ確実にマンネリ化して飽きてしまいます。ですから散歩コースをいくつも用意し、生活活動量計やスマートフォンのアプリなどを利用することがお勧めです。最近の生活活動量計は多機能で、前述のExを自動計算してくれるだけでなく、歩いたコースを地図上で表示したり、中には日本橋をスタートして品川まで来ましたなど、東海道の旅を再現してくれるものまであります。走る人向けには高価ですが腕時計型のGPS内蔵ランニングウォッチもあります。これを利用すると走行距離はもちろんのこと、1kmごとのラップタイム、平均速度なども詳しく知ることが出来ますし、脈拍センサーを装備すれば運動中の脈拍数をリアルタイムで知ることも出来ます。
 「運動の実際は良く分かったけれども、忙しくて毎日歩くなんて出来ないよ」との声が聞こえてきます。その通りです。世の中不景気で皆身を粉にして働いているのですから、毎日1時間半もの時間をただ歩くなんてことは出来ないのが当然です。涼しい顔で運動を説く医療者側には、運動する時間どころか睡眠時間まで削っている労働者の実態がよくわかっていないのが実情かもしれません。ですからここで忙しい人に提案をします。同僚との打ち合わせは立ったまま、あるいは散歩しながら行ってください。急を要さない用事は歩いて済ませましょう。2~3階であれば階段を使用して下さい。出張時駅や空港での待ち時間に散歩して下さい。自宅に帰ってからも、テレビドラマや映画を見る際にはストレッチ体操や筋力トレーニングをしながらにして下さい。これらを根気よく継続するだけでもだいぶ違うはずです。
 運動療法で最も大切なことは、根気良く継続することに尽きます。三日坊主にならないことです。我々は物事をやらない、あるいは行えない理由はいつもたくさん用意しますが、時間は工夫次第でどうにでもなるものです。皆さんの健闘を祈ります。