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コロナが招く別の危機

 厳しい残暑が続きますが、それでも朝には秋風が感じられる今日この頃です。新型コロナウイルス感染症の流行拡大はとどまる気配がなく、沈鬱な気分になりますね。コロナは、色々な所に、様々な問題を惹起します。今回は、その一つに焦点を当てて書いてみました。


 あるとき息子の運転で遠出をした際に、彼の音楽コレクションから聞こえてきたとある曲の歌詞、「君の運命のヒトは僕じゃない 辛いけど否めない でも離れ難いのさ」が気に入った。リピートで聴き込む。「君とのラブストーリー それは予想通り いざ始まればひとり芝居だ」で始まる、切ない失恋物語。作詞、作曲そしてヴォーカルを勤める藤原聡はまだ30代前半の若手だが、素敵な歌を多く作る。この曲の他にはどのようなものがあるのかしらと、早速CDを入手してみたら、綺麗に伸びる高音のヴォーカルに忽ち魅了された。もう一曲、「酸いも甘いもって言えるほど 何も僕ら始まっちゃないけれど 褪せた思い出もビンテージなんて言って 振り返る度に笑えるようにと 大切に日々を重ねよう かけがえのない今を」なんて、こちらはこれから始まる二人の恋を言祝ぐ歌だ。若いっていいなあとおもいながら、とかくマンネリ化しがちな車載オーディオのプレイリストを更新した。

 相棒と共に歩んできて来年で満30年を迎えるのだが、健康が一つの取り柄である彼女に今年の春、がんが見つかった。今まで2年毎の検診を欠かさずに受けてきたが、たまたま前回機会を逸し、4年ぶりの受診となった。まあ、日本人の2人に1人は生涯を通じて何かしらのがんになり、3人に1人はがんで亡くなるのだから、今やがんは決して珍しい病気ではない。だからこそ定期的な検診がとても大切なのだが、往々にして相棒のように、たまたま受診を逃した隙を見逃さずにがんは狡猾に忍び寄る。
 宮城県における平成30年のがん、年齢調整罹患率は人口10万人当たり男性が314.2、女性は266.3で、男性は減少、女性は増加傾向だ。部位別にがんの罹患割合を見ると、男性では大腸、胃、前立腺、肺の順に多く、この4部位で6割を占める。女性では乳房、大腸、胃、子宮、肺の順で、この5部位でやはり6割を占める。
 がんはもちろん悪性疾患の代表で、発見が遅れて進行してしまえば現代でも致死率の高い疾患だ。がんによる死亡の3分の2は肺、胃、大腸、肝臓、膵臓そして乳房の6つが占める。しかし検診で早期に発見することが出来れば、進歩が著しい治療法のおかげで、決して不治の病とは言えなくなってきたのが現状だ。実際にがん患者の5年生存率はここ数十年で大きく改善し、現在では男女共に概ね60%を越えている。さて、それではがん検診や人間ドックにて発見されるがんの割合はどの程度であろうか。これも平成30年のデータによれば、検診で発見されたがんの割合が最も高いのは子宮頸がんで45.2%、最も低いのが肺で20.1%であった。
 胃、大腸、肺、乳房、子宮頚部の5部位にかんしては、がん検診を受けることによって、そのがんで死亡する危険性が減少することが既に証明されている(流行の言葉で言えばエビデンスがあるということ)。一方で、その他のがん、たとえば膵臓、肝臓、卵巣、子宮体部にかんしては、エビデンスがないのが現状である。さて、それでは気になるがん検診の受診率だが、残念ながらこれが日本ではかなり低い。胃がん検診で辛うじて50%を超える程度で、その他は概ね40%台で低迷しているのが現状なのだ。更に懸念事項はこのコロナ禍である。公益財団法人日本対がん協会の調査では、2020年に実施した5つのがん検診(胃、肺、大腸、乳房、子宮頚部)の受診者は394万1491人で、2019年の567万796人から大幅減(対前年比30.5%のマイナス)となったことが分かった。検診会場におけるコロナ感染を危惧した結果とおもわれるが、当然コロナ禍にあってもコンスタントにがんは発生しているわけで、このまま受診抑制が続けば、多くの早期がんが見逃される結果につながる忌々しき事態である。検診会場となる各施設は受診者を制限するなど、様々な感染予防対策を徹底しており、感染症のリスクは高くない。コロナを恐れるあまりに早期がんを見逃す事態には陥らないことを切に願う。

 クリニックの休診日に放射線照射治療を受ける相棒を車で病院に送りながら、にわかファンとなったOfficial髭男dismの「Pretender」と「ビンテージ」を聴く。ぼくにとって、いや相棒にとっても、やはりお互いが「運命のヒト」であり、二人で30年も過ごしてくれば、さすがに「酸いも甘いも噛み分ける」ようになるよなあとしみじみとおもうのだった。この先どうなるのか、こればかりは天のみぞ知るわけだが、残された時間を大切にこれからも二人で歩もうとおもっている。