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「風の谷」を目指そう

 先日休暇を取って、義母と義兄のお墓参りに弘前まで出かけてきた。時まさに秋本番で、東北自動車道を走る車の車窓からは広葉樹の雑木林が赤や黄色に染まって織りなす、息を飲むほどの美しい風景を楽しむことが出来た。新緑の季節、柔らかい黄緑色に染まる山も好きだが、晩秋の燃え上がるような紅葉は、やがて迎える冬枯れの厳しい季節を前に木々が最後の力を振り絞って美を競っているかのようでいつも心を打つ。
 車窓からの風景で、紅葉の他に目に付くものがもう一つあった。それは南向きの丘陵地帯に数多く設置された太陽光発電用のパネルである。宮城県北から岩手県南にかけて、大規模な太陽光発電所が散在しており、整然と並んだ黒いパネルが織りなす光景は自然美とは対極にある人工物の極みのようにおもえた。
 さて無事にお墓参りを終え、帰路は日本海側を走ることにした。山形県鶴岡出身の今は亡き親友が常々絶賛していた、国道7号線沿いの風景を是非観てみたいとおもったからである。弘前から通称アップルロードと呼ばれる広域農道から帰路スタート。途中で腹ごしらえをした蕎麦屋も健在で、岩木山麓で収穫された蕎麦を用いた二八蕎麦は相変わらず美味であった。岩木山神社に参拝してから青森県の日本海側、深浦に抜ける。鰺ヶ沢、千畳敷辺りまでは大学生時代によくドライブで訪れた。その先、秋田県との県境からは未体験ゾーン。海岸には灰色の波が激しく打ち付け、もはや冬の日本海をイメージした。密入国密出国を警告する看板などが設置されており、唐突に新潟の海岸から拉致された同胞のことをおもった。しばしものおもいに浸りながらハンドルを握っていると、助手席の相棒が指を指す。その先には風力発電用の巨大なプロペラが林立する風景。プロペラの大きさにも種々在って、もっとも大きなものはゆっくりと、小さなものは勢いよく回転している。なるほど、近辺の防風林を観ると皆陸地側に傾いでいて、常時強い海風が吹いていることが想像できた。以後7号線を鶴岡まで南下する途中のあちらこちらで大小多数の風力発電用プロペラを観ることとなった。
 なるほど、東北地方の内陸は太陽光発電に適し、日本海側は風力発電に向いているということだと解釈した。昔はこれほど太陽光パネルや風力発電用のプロペラを観なかったようにおもい、我々が普段当たり前のように消費している電力の電源別割合は今果たしてどうなっているのかを調べてみた。電力調査統計などによると、2019年の日本国内における全発電量に占める割合は、石炭などの火力が75%、自然エネルギー(水力、バイオマス、地熱、風力、太陽光)が18.5%、原子力が6.5%とあった。なお、現在稼働中の原子力発電所(原発)は九州電力玄海原発4号機のみであり、2020年の原子力が占める割合は更に低下しているものとおもわれる。2018年に政府が策定したエネルギー基本計画によれば、2030年時点での電源構成に占める原発割合を20~22%にするという。これを現実化するために必要な原発数はおよそ30基とされるから、定期点検や自然災害あるいはテロ対策等の工事で軒並み休止している原発をあと10年で30基稼働させるのは、かなり無理のある計画とおもう。
 さて国内の自然エネルギーの割合はどうなっているのだろうか。太陽光が水力に並んでそれぞれ7.4%、バイオマスが2.7%、風力は0.76%、そして地熱が0.24%で合計18.5%だ。先に菅首相がぶち上げた2050年カーボンニュートラル日本を実現するためには、これら自然エネルギーの占める割合を指数関数的に増やす一方で、依然として75%を占める火力発電を今後いかにして減らしていくのかが問題の肝だとおもう。さてどうするのか。よもや原発を新規増設するつもりではないよね。その解決策の一つは水力だとおもう。日本には急流の河川が全国各地に数多くある。これを利用しない手はない。小規模の水力発電所をあちらこちらに設置するのである。そう、昔ながらの水車である。水車で小規模に発電しつつ、蕎麦粉を挽き、うまい蕎麦を提供するお店が出来れば、過疎の村も賑わうのではないか。
 まあ妄想はこの程度にして、今回のお墓参りでぼくが観てきた太陽光発電パネルと風力発電プロペラについてもう少し掘り下げてみる。東北電力の自然エネルギー比率は33.8%、その内訳は水力が15.7%、次いで太陽光が8.5%、そして風力も3.5%に達しているそうだ。東北地方のあちらこちらでプロペラを観ることが出来ることも頷ける。因みに風力の割合がもっとも高いのは北海道電力で3.7%、太陽光は九州電力で12.4%だそうだ。さて全世界に目を向けるとどうなっているのだろう。デンマークでは自然エネルギーの割合がなんと驚くことに約84%(風力51.6%、太陽光3.2%、バイオマス6.2%)で、石炭火力は16.1%、そして原子力は0%である。その他オーストリア、スウェーデンやポルトガルも自然エネルギーの割合が高い。唯一フランスが原発の比率が70%と高いのみで、ヨーロッパ諸国はこの分野でかなり進んでいる。デンマークとスペインは2050年までの長期目標として自然エネルギー比率100%を目指しているという。さて日本である。菅首相にもの申す。2050年にカーボンニュートラル日本を本気で達成するつもりなのか?一体どうやって?言うだけなら誰にでも出来る、言うは易し行うは難しである。電源構成で75%を占める火力発電を今後どうするのか、原発をどうするのか具体的なビジョンを示して欲しい。時折しも北海道寿都町が高レベル放射性廃棄物(いわゆる核のゴミ)最終処分場にかんする文献調査に応募した今、我々庶民も本気で考えなければならない。人が短時間浴びただけでも死に至るほどの高線量を数万年に亘って放ち続ける核のゴミを、これからも生み出し続けて果たしてよいのか。地中深くとはいえ、そのように危険なものを埋めて「臭いものに蓋」的態度で本当によいのか?
 日本はその国土の67%を森林が占める世界有数の森林国である。周囲を海に囲まれ、湖沼、河川も多い。常時風の吹く海岸もあれば、日照が豊富な地域にも恵まれている。デンマークに出来ることが日本で出来ないはずはなかろう。自然エネルギーを最大限に利用する電源政策に是非舵を大きく切って欲しいと切に願う。そのために専門家の意見を真摯に聴く姿勢はとても大切で、日本学術会議にまつわる醜聞は実に残念であった。
 それにつけても、風を受けて回る大きな風力発電プロペラは実に美しかった。車を走らせながら既視感を覚えたのだが、それが何であるのか分らずにいた。今ようやくおもいだした。宮崎駿の「風の谷のナウシカ」で描かれた「風の谷」の入り口にあった大きな風車だ。常時吹く風が「風の谷」に住む住民たちの生活を守っているのだった。
 原発事故で汚染されたフクシマを再生するシンボルとして、かつて原発のあった場所に
将来たくさんの風車を設置するのはいかがであろうか。

 追記:文中にある諸データにかんしては、認定NPO法人環境エネルギー政策研究所(isep)
のホームページを参照した。