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歯無しにならないための話

 猛暑もひと段落。朝晩はだいぶ涼しくなってきました。
 米国と中国、そして日韓。なかなか上手く行きませんね。人類皆兄弟、同じ地球人。もう一段上から見るとまた違った風景になるとおもうのですが、ダメなんでしょうなあ。

 今回は歯周病の話をします。

 先日我が家のアイドル犬であるラッキー(ジャックラッセルテリア、7歳)が全身麻酔下で歯周病の処置を受けた。想いの外重症で、上顎の前臼歯を中心に10本近くの抜歯が必要になってしまった。まあイヌの象徴ともいえる犬歯を上顎、下顎共に残すことが出来たので安堵したのだが、自然に脱落してしまった上顎の切歯を含め、中年(7歳はヒトに換算すると40歳くらい)にして既に三分の一ほどの歯を失ってしまったことになる。イヌの歯は上顎20本、下顎22本の合計42本だから、まだ30本近くの歯が残っているし、イヌは元々我々ヒトのように食べ物を咀嚼することなく丸呑みするから、多少歯が抜けても食生活にそれほど支障はない。それでも歯周病がこれほどまでに進行していたのだから、今までさぞかし苦しかったであろうと気の毒におもい、熱心に歯磨きをしてやらず、日々口臭が酷くなっていることに気付いていたにも拘わらず手を拱いて、かかる事態を招いた責任は飼い主にあることを痛感して反省した。もう一頭のラブラドール・レトリーバー(めい)は10歳と高齢になってきたが、まったく歯のトラブルがないことをみると、どうやらイヌの歯周病は小型犬、中型犬に起こりやすい病気のようだ。素人なりに分析してみると、大型犬と小型犬では唾液の分泌量が圧倒的に前者で多い。恐らく大型犬ではその豊富な唾液が口腔内の清浄に一役買っているのだとおもう。もう一点は口腔の広さだ。大型犬は文字通り口腔も大型で歯間が広く、食べ物が挟まりにくいのであろう。
 歯周病は我々ヒトにとっても重大な疾患である。特に最近は糖尿病との関連性も深いことが徐々に判ってきた。歯周病は歯と歯肉の間に出来た隙間(歯周ポケット、驚くべきことにその総面積は手の平一枚分にもなると言われる)に溜まった歯垢(プラークと呼ばれ、種々の細菌が存在する)が原因となって起こる慢性的な炎症である。炎症が起こっている歯周ポケットからは種々の物質(サイトカインと呼ばれる)が大量に分泌され、このサイトカインが血中に乗って全身に行き渡ると、人体各所においてインスリンの働きが悪くなることが判ってきた。つまり歯周病があると、糖尿病が悪化しやすくなるということだ。一方で糖尿病の状態が悪いと、細菌に対する抵抗力が弱まり、歯周病が発症悪化しやすくなる。つまり糖尿病と歯周病はお互いがお互いを悪化させ合う、負のスパイラルとでも言うべき関連にあるということなのだ。問題はこれだけに留まらず、歯周病が悪化して歯を失うと、当然のことながら食事に支障が及ぶ。バランスよく、色々なものを食べることが出来なくなって栄養バランスが崩れる。おかゆや麺類ばかり選ぶようになると炭水化物過剰の食事内容となり、必然的に高血糖が持続して糖尿病が悪化する結果に陥る。更には歯周病により口腔内に存在する大量の細菌を肺に吸引することで、肺炎(誤嚥性肺炎)を起こしやすくなる。糖尿病を持つ高齢者がひとたび誤嚥性肺炎を発症すると治療に難渋することが多く、不幸な転帰に至ることが多いのが現状だ。
 歯周病を予防するために毎食後のこまめな歯磨きが大切であることは論を俟たないが、通常の歯ブラシに加えて歯間ブラシやデンタルフロスを使用することも大切である(プラークコントロール)。それでも日々少しずつ歯石が沈着することは避けられないので、定期的に歯科を受診して歯石歯垢除去(スケーリングと呼ばれ、歯科衛生士さんが行ってくれる)を受けることが大切である。対策を怠り、歯周病がある程度進行してしまった場合には、歯根の処置(ルートプレーニングと呼ばれる)や最悪の場合は抜歯が必要となる。いずれにせよ何を措いても大切なことは、必ずかかりつけの歯科を作り、何も症状がなくても定期的に受診することなのだ。
 ラッキーは術後、びっくりするほど穏やかになり、口臭もほとんど無くなった。きっと今まで痛みや、疼き、その他諸々の症状があって日々苦しんでいたに違いない。その後色々と調べてみると、イヌの歯周病を放置した場合、上顎洞や眼窩にまで炎症が及ぶケース、あるいは細菌が血流に乗って菌血症を起こす可能性もあることを知った。一説によると歯周病を放置することでイヌの寿命が3年間も短くなるとのこと。いやはや悪いことをした。なるべく頻繁にオーラルケアをしてやり、効果があると言われているサプリメントも試してみよう。ラッキー、ごめんな。