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果たして運動で痩せることは出来るのか?

 まだまだ残暑が厳しい今日この頃ですが、それでも虫の声が響き、朝夕は若干涼しくなってきて秋の気配を感じます。お盆明け、太ってしまった方も多いのではないでしょうか。年末年始と並んで、この時期は体重増加に悩む方々から多く相談を受けます。今回は、なぜ簡単には痩せないのかということについて説明してみます。

 「果たして運動で痩せることが出来るのか?」
 この問いに対する答えはもちろんイエスなのだが、その割には「一所懸命歩いているけれど、一向に痩せません!」と嘆かれる諸兄姉が多い。車が走ればガソリンを消費すること同様、我々人間も活動するためにはエネルギーが必要なのであって、活動量が多ければ必ずあなたは痩せる。しかし何故かあなたは容易には痩せない。実のところ、あなたが痩せるために必要な運動量は、あなたが想像しているよりもずっと、もっと、とても多く、かつ一方であなたは必要以上にたくさん食べているという話が今回の主題である。
 一等最初に「痩せる」ということの定義をしておく。我々の身体を構成する物質で最多なものは水である。大雑把に50%以上は水と考えていただいて支障がない。つまり体重70キロであれば、35キロ前後は水ということだ。従って、最も簡単に痩せる方法は水を捨てることである。実際に体重によって厳格にクラス分けされる競技(柔道、ボクシングなど)の選手たちは、計量直前まで水分摂取を控えて汗をかくことで何とか体重を落とそうと画策する。もっとわかりやすい例を引けば、サウナがある。長時間サウナで粘って汗をたくさんかいて、痩せたと喜んでいる御仁が相変わらずに多いのだが、これは単に水分が身体から抜けて脱水に陥った不自然な姿であって、ふろ上がりに水分を摂取すればすぐに体重は元通りになる。余談となるがこのサウナ、結構危険なので覚えておかれたい。特に腎機能が低下しているご高齢の方の場合、長時間のサウナ入浴にて脱水に陥ると更に腎機能が低下する可能性が濃厚であり、一方では血液が濃くなって血栓を生じやすくなり、最悪の場合脳血栓を来すこともある。火照った身体に冷水を浴びるショックで狭心症発作を起こすこともあり得る。このように水分が抜けること(脱水)によって「痩せる」ことは言わば「質の悪い痩せ方」であり、目指すべきは「質の良い痩せ方」である。「質の良い痩せ方」では体脂肪の削減を狙う。
 この脂肪、1グラムが9kcalもあって、ブドウ糖(1グラム4kcal)の倍以上のエネルギー量を誇る。つまり脂肪1キログラムは、なんと9000kcalに相当するわけであり、1キログラム痩せるためには9000kcalを消費しなければならないのである。さてここからが本題である。悩める諸兄姉が普段取り組んでおられるウォーキングだが、おおよそ1キロメートルで50kcalを消費する運動である。とすると、脂肪1キログラム(9000kcal)を消費するためには、9000÷50で180キロメートルも歩く必要があるのである!別な見方をしてみよう。1日8000歩を毎日歩くと仮定する。小生の場合1キロメートルがおおよそ1200歩、つまり8000歩で約6~7キロメートルに相当する。とすると毎日欠かさず8000歩をキープしても180キロメートルを踏破するためにはひと月近くかかる計算なのだ。因みにマラソンならどうであろうか。42.195㎞を走破する過酷な競技とおもわれる向きが多いであろうが、実は消費カロリーは3000kcalと少しである。つまり、フルマラソンを3回完走して初めて脂肪1キログラムが減る計算なのである。余談であるが、フルマラソンを走った後数日間は体重がむしろ増加する。先日函館マラソンをパーソナルベストとなる4時間16分で完走した小生の体重は、翌日からおおよそ1週間にわたって2キログラム近く増えた。これは過度な負荷によって傷ついた下肢の筋肉が、修復する過程で水分をため込むことが原因とされている。実際この間体脂肪率は数%減少し、下肢はパンパンに張れていた。つまり、ちょっとやそっとの運動では、容易に体重は減らないということをご理解いただけるとおもう。
 閑話休題。ウォーキングで1キログラム痩せるためには、毎日欠かさず8000歩をひと月間継続する必要があるのであった。「わたしはずいぶん前からそれ位実行している!でも全く痩せない!」との鼻息荒い反論があなたから寄せられる。あなたが痩せない理由について、ここからは摂取カロリーと消費カロリーのバランスに着目して考えてみよう。基礎代謝というものがある。これは眠っていても、じっとしていても消費されるエネルギーのことと大雑把に理解していただいて構わない。体温維持、心臓の拍動、腸管の運動などで消費されるエネルギーで、性差、年齢、体格によってもちろん変動するが、これも大雑把に1日1500kcal前後と覚えておいて大過はない。つまり、毎日全く運動せずに寝て過ごしても1500kcalは消費する、換言すれば1日1500kcalの食事摂取量を守っている限り、全く運動しなくても太りはしない計算である。仮に1日8000歩のウォーキングを日課にしているとして、その消費カロリーは1キロメートル当たり50kcal、1キロメートルが約1200歩であったことを思い出していただき、8000÷1200×50でおおよそ300~350kcalとの計算が成り立つ。日課のウォーキング以外にも家事一般、あるいは通勤時の歩行などの運動量を加算して、運動消費カロリーをおおよそ1日500kcalと考えると、基礎代謝の1500kcalを加えて、1日2000kcalの食事量であれば太りも痩せもしないという計算になる。当然それ以上に食べれば、徐々に太ってくる、少なくとも全く痩せないという結論が導かれるのである。
 さて、それではお馴染みの食事メニューとそのカロリーをおさらいしてみたい。おおよそ、かつ丼900kcal、牛丼700kcal、カレーライス700kcal、味噌ラーメン650kcal、イチゴのショートケーキ300~400kcal、ハンバーガー300kcal、あんパン260kcal、メロンパンは400~500kcalなどである。カツカレーにしたり、大盛りあるいはライスやフライドポテト、コーラなどを付け加えたりするあなたの摂取カロリーがどの程度になるか簡単に計算できることとおもう。もう一つだけ例を挙げておく。お盆中に家族で焼肉食べ放題を楽しんだあなたの場合である。カルビは100グラムでおおよそ500~700kcal、ビールは500㎖で200kcalだ。さあ思い出してほしい。カルビ二人前のほか、牛タン、ホルモン、ソーセージの盛り合わせにシーフードも食べたっけ。野菜も大切だからとおもってドレッシングをたっぷりかけたサラダを選んだ。ビールは大ジョッキで2杯だった。締めに冷麺も食べたし、デザートとしてアイスも。総計軽く2000kcal近くにはなっているかもしれない。さすがに昨夜はちょっと食べすぎたからと反省して、あなたは今日いつもより長く頑張って12000歩も歩いた。それでも消費カロリーは500kcalにしかならない。もし昨夜の2000kcalを消費しようとおもったら、2000÷50で40キロメートルは歩かねばならないのだ!ああそれなのに、あなたは12000歩稼いだ自分へのご褒美として今アイスクリームを食べている。あなたが痩せないのも決して不思議なことではないのであった。
 結論を述べる。運動を根気よく継続すれば、必ずあなたは痩せる。ただし効率良く痩せるためには大切な条件が一つあるのであり、それは過剰に必要以上に食べないという至極当然かつ簡単なことである。ところがその実行はそれほど簡単ではない。「運動したのだから多少食べても良いのでは?」との甘い誘惑に抗うことは多くの人にとって極めて困難なのである。
 最後に小生のケースを提示して、中年男性がいかに痩せにくいかを再確認したい。犬二頭を飼っているので、四季天候を選ばず毎朝1時間弱、距離にして4キロメートルは必ず歩く。駐車場からクリニックまでわざと遠回りして更に1~2キロメートル歩くようにして、1日の平均歩数は軽く10000歩を超えている。今年になって今まで散歩をしなかった日は出張時など、たった4日間に過ぎない。その他趣味のマラソンに備える練習で月に10~15日間、月間120キロメートルは走っている。フルマラソンはこの7年間で10回、ハーフマラソンは20数回完走した。運動量に多少の変動はあっても、基本的にこの生活を震災後からずっと7年間継続している。小生の体重はどう変化したか?ピーク時から2キログラム減少しただけである。未だにBMIは25を超えており、体脂肪率は20%以上で推移している。何故痩せないかはもう十分にお分かりのこととおもう。小生は基本的に食事制限を一切していない。朝昼夕と三食しっかり食べるし、お酒も毎日少なくない量を飲んでいる。つまり単純に摂取カロリーが多いのである。本気で痩せたいとおもい願うのであれば、運動に加えて食事量の制限がどうしても必要になるのである。諸兄姉の健闘を祈る。