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スクラップアンドビルド

 今年の夏は殊の外暑く、数日前には仙台市でも観測史上最高となる37.3度を記録しました。熱中症で救急搬送される人の総数は全国で5万人以上、既に昨年の記録を上回っています。これから8月も平均並みか、やや高めの気温が続くという長期予報も出ました。体調管理をしっかりとしたいものです。
 
 相次ぐ文科省の不祥事に加え、東京医大の女子受験生に対する一律減点操作、ボクシング協会の醜聞。様々な組織で経年劣化、梗塞症状が出ているようにおもわれます。今回は「スクラップアンドビルド」と題したショートエッセイを書いてみました。


 ぼくが現在居を構える仙台市郊外の住宅地は昭和40年代前半に造成されたので、かれこれもう50年近くが経過していることになる。ぼくの両親を含む初期の住民はみな高齢化が進み、80から90歳代を迎えている。当然のことながら住民の世代交代が進むが、後継ぎがなく、空き家となっているところも多い。先の大震災以後はその傾向に拍車がかかり、明らかに住人の居ない、古い家屋が散在する住宅地に一抹の寂しさを感じるのが常だった。不思議なもので、住人が居なくなると、家屋は突然急速に劣化を始める。庭にはびこる雑草や窓ガラス、壁のくすみが廃墟らしさを効果的に演出するのだ。建物も住人と共に生きている、そう感じる所以である。
 ところが、そのような状況にここ数年変化が観られている。あちらこちらで古い家屋の解体工事が始まり、更地化されて区画整理が行われている。元々この住宅地は一区画が80から100坪と広めの所が多いのだが、その土地が概ね2から3区画に再整理されて、そこに建売住宅が建設されて販売される。一区画40坪前後とやや手狭な印象はぬぐえないが、それでも余裕で建物面積100平方メートルを超える4LDK以上の一軒家と2台分の駐車場が整備され、概ね3000万円台で売り出されている。この住宅地、バス路線はあるものの、最寄りの地下鉄駅まで徒歩では厳しい立地故、はたして売れるのかしらと訝っていたのだが、販売開始と同時にすぐに買い手が付く。よくよく考えてみると、この住宅地内にはぼくの母校でもある小学校と中学校がいずれも徒歩15分圏内にあり、生協の店舗が二店、コンビニ、銀行、郵便局にガソリンスタンドも近い。加えて先の大震災でもほとんど被害がなく、地盤が強固だという評判が呼び水になっているらしい。子育て世代の若夫婦に人気があるということのようだ。
 話しは飛ぶ。我々の身体を支える全身の骨は生きている。骨というと何か無機質な固い物体をイメージして、あまり変化しないものとおもわれるかもしれないが、骨は日々更新されている。骨を構成する大切な細胞には二種類あって、骨芽細胞と破骨細胞と呼ばれる。前者は骨を作る細胞、一方で後者は骨を分解する細胞と大雑把に理解していただいて構わない。骨は一度形成されれば終わりではなく、古くなった所を破骨細胞が壊し、その後骨芽細胞が新たに骨を作り上げるという、言わばスクラップアンドビルドを際限なく繰り返しているのだ。このバランスが崩れてしまうことによって起こる疾患が骨粗鬆症と呼ばれるもので、高齢者の骨折原因として重要だ。まあつまり、一見強固で安定しているように見えるものでも、その内部では果てしなく破壊と再生が繰り返されており、それが生きるということなのだ。あるいは、より強くなるためには破壊が必要と言い換えても良いかもしれない。
 閑話休題。毎朝散歩中に見る古民家の解体と再区画整理、新居の建築もこの住宅地が生き残るために必要なプロセスなのだとおもうに至った次第。ただ一点、広い庭と豊富な庭木が失われていくことが心残りだが、雑草に覆われた廃屋が増えることを考えれば、この住宅地が将来にわたって元気にいるために必要なことなのだ。このことは種々の社会組織にも敷衍して考えることが出来るとおもう。昨今急に目立ち始めた文科省の贈収賄に代表される不祥事は、このスクラップアンドビルドが機能不全を起こしている証なのかもしれない。いや、ぼくのクリニックも決して例外ではない。開院後15年が経過し、色々と硬直して風通しの悪いところも見えてきた。安住の地にただ座していても劣化が進むだけかもしれない。人心を一新する、あるいは体制を大幅に変更することは当然痛みも伴うが、より強くなるためにはどうしても必要なプロセスなのかもしれない。
 ぼくの好きな言葉に、次のようなものがある。「美味しいオムレツを作るためには、まずあなたが卵を割らなければならない。」これもスクラップアンドビルド、とても大切なことなのだ。