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フルマラソン体験記 その2

 先の日曜日、登米市の長沼周囲を巡るコースで開催された東北風土マラソンに参加してきた。ぼくにとって通算5度目となるフルマラソンであり、密かに期するところがあった。今回はその辺りのことを書いてみたいとおもう。

 過去4回フルマラソンに挑戦し、いずれもゴールしたとはいえ、そのうち3回は後半にスタミナ切れを起こして青息吐息、ウォーキングを交えつつ辛うじてテープを切るような状態であった。残り1回こそ歩かずに完走したものの、最後の10キロは極端にスピードダウンし、全く余力のないレース運びであった。そして何よりも走り終えた後の疲労感や筋肉痛がかなり激しく、レース後しばらくの間ジョギングはおろか、ウォーキングにも苦労する状態が続いた。これでは身体に悪いし、仕事にも支障が及んで何よりも楽しくない。マラソンの醍醐味は、その達成感と気分爽快にあり、これらが得られずに苦痛しかないのであれば、当然継続できるはずがない。

 だから、今回はかなり考えた。

 過去4回共にレース開始後前半は調子が良く、周囲のランナーに合わせて、快調に自然とペースアップしていた。でも、中間地点を超えたあたりから既に両脚は攣りはじめ、脈拍は毎分160台以上を記録していた。30キロ以降はとにかく苦行の連続となり、既述の如く青息吐息の状態で疲労困憊、倒れこむような感じでゴールを迎えるのが常であった。
 よく持久力を養う、あるいはスタミナを付けることが必要と言われるが、ではその「スタミナ」とはいったい何なのかをまず考えて、色々と調べた。我々が運動時に利用するエネルギー源は大雑把に分類すれば糖と脂肪の二つである。糖はグリコーゲンという物質に変えられて肝臓と筋肉に蓄えられている。その量はそれぞれ100グラム、500グラムで合計600グラムほど。グリコーゲン1グラムは1kcalに相当するので、600kcal分の燃料にしかならない計算だ。この貯蔵量ではフルマラソン完走にはとても足りない。一方で脂肪は1グラム当たり約7kcalのエネルギー量を有し、例えば体重70キロ、体脂肪率20%なら14キロの脂肪、つまり98000kcalもの燃料をストックしていることになる。要するにフルマラソン完走のカギは、如何にしてこの脂肪を有効に燃料として利用するかに在るのだった。
 さてそれでは糖、脂肪の利用割合と運動強度にはどのような関係があるのか。安静時から中等度までの運動であれば、糖と脂肪はおおよそ半々の割合で利用され、運動強度が増すにつれて糖が主に使用されるようになる。つまり脂肪を効率よく燃料として使用するためには、あまり強度の強い運動をしてはならないのである。なるほど。それでは自分にとってどの程度の運動が理想的な強度なのかを知る必要がある。それを厳密に知るためには「最大酸素摂取量」というものを調べる必要があり、それには結構大がかりな検査が必要で、一般ランナーには望むべくもない。ところがうまい具合に、ある項目をチェックするだけで、おおよそのことが判るのである。それは脈拍(心拍数)だった。最近販売されているジョギングウォッチには脈拍を計測できるものが数多いし、それらを購入するのがもったいないと思うのであれば、15秒間自ら手首で脈を取り、それを4倍すれば1分間の心拍数は簡単に知ることが出来る。あまり運動習慣が無い人の場合、「138-年齢÷2」を目標にし、それでは辛すぎる場合には「128-年齢÷2」を、一方まだまだ余裕があるならば
「148-年齢÷2」を目標心拍数に設定するとよいそうだ。ぼくの場合であれば、脈拍120台が脂肪燃焼に最も理想的な運動強度であることがわかった。

 さて、この知識をもとにして東北風土マラソンに臨んだ。競技開始後、ひたすら脈拍数に注意し、最大で130bpmを超えないよう、ゆるゆると走り出す。どんどん抜かれる。最後方集団の一人となってしまった。1キロ7分半~8分で、遅々として進まずに気持ちは大変焦る。こんなんで良いのかと心配になるが、確かにこのペースならば全くと言ってよいほど疲労感は無い。その後20分の時間差でスタートした大量のハーフマラソン参加者にも次々と抜かれ、何だか情けない気分になってきた。それでも焦りは禁物と、とにかく時計、脈拍計と睨めっこしつつ走り続けた。そうすると不思議なことに、ハーフを走り終えた時2時間40分が経過していたが、全く筋肉痛も無ければ、足の痙攣も無く気分爽快であった。これは初めての経験。その後は少しずつペースをアップして、30キロ地点を経過した時、ぼくは余裕のゴールを想像することが出来た。残りの10キロは笑顔で、それもスピードアップして1キロ6分30秒程度で走ることが出来たのである。この間青息吐息で歩いているランナー(かつての自分もそうだった)をごぼう抜き(30人までは数えていたが、その後馬鹿らしくなってやめてしまった)できたことは正に痛快であった。結局後半は2時間20数分で走り終え、合計5時間2分35秒でゴール。ぼくのパーソナルベストは4時間20分だから、記録的には劣るが、とにかく完走後も余裕があり、まだもう少し走れるとまで思えたことは大いなる収穫であった。今後はこのスタイルでもう少しペースアップを図りたいと考えている。

 先日母校の中学校までジョギングしていき、校庭のトラックを数周して帰ってきた。中学生時代、あれほど持久走が大嫌いであった少年が、今や齢50を超えてフルマラソンを完走するようになるとは、他の誰でもなく、ぼく自身が驚いている。絶対に出来ない、無理だとおもうことであっても、色々と工夫しつつ勉強もして取り組めば、実現できるものだと感心した次第。ぼくがお付き合いする患者さんの多くも、運動療法の話になると、やれ寒いから、もう若くないから、時間が無いからとの逃げ腰が目立つが、そのかなりの部分を「運動は辛くきついもの」との誤った思い込みが占めている。脈拍数100~120bpm程度のゆるゆる、ニコニコペースのジョギングは、決して辛くも苦しくもない。ぜひ取り組んで頂きたいとおもう。

 参考文献:「ランニングする前に読む本」 田中 宏暁 著 (講談社BLUE BACKS)