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多剤耐性菌と抗生物質

 ほとんどの抗生物質が効かない多剤耐性菌の感染者が報告されました。目に見えない細菌のことですから、恐怖感を覚えておられる方も多いと思います。しかし現時点でこれらの細菌は基本的には弱毒性で、一般健康人に対しては万が一感染しても重症化することは稀だと思われます。一方お年寄りや、慢性疾患を持っておられる抵抗力の弱い方々にとっては脅威です。感染を防ぐためにできることは、徹底した手洗い、マスク着用程度ですが、それらをきちんと実行すれば有効性は高いのです。ぜひ手洗いとうがいを習慣化させてください。
 今回報道されたNDM1とは、細菌が保有する遺伝子で、ニューデリー・メタロ・β・ラクタマーゼという酵素を誘導するものです。抗生物質の多くはその分子内にβラクタム環と言われる構造を有しています(高校の有機化学で習った亀の甲羅です)。抗生物質中のこの構造が細菌の細胞壁合成を阻害することで抗菌力を表します。βラクタマーゼと呼ばれる酵素は、抗生物質の基本構造であるこのβラクタム環を分解してしまうのです。したがってこの酵素を有した細菌は、ほとんどの抗生物質に対して抵抗力を持つことになります。
 それではなぜ細菌はこのように耐性を持つようになったのでしょうか。最大の原因は安易な抗生物質の乱用と思われます。元来細菌感染のほとんどは、我々の有する免疫機能により自然治癒します。にもかかわらず抗生物質が多用されたために、長い年月をかけて細菌が抗生物質に対して徐々に抵抗力をつけたのです。細菌だって生き物ですから、生き延びるためには必死なのです。
 これ以上耐性菌を増やさぬために我々にできること、それは安易に抗生物質を使用しないことに尽きます。以前このコラムにも書きましたが、熱が出るとすぐに抗生物質を求める患者さまが依然として多数おられます。風邪の原因のほとんどはウイルス感染であり、抗生物質は全く効果がありません。当院では、明らかに細菌感染が疑われる例(血液検査にて白血球数の増加を認める場合や、黄緑色の痰が多量に出る場合など)以外には抗生物質の処方を極力行いません。ご理解いただければ幸いです。