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「老人の壁」を読んで

院長の本棚23:「老人の壁」 養老孟司 南伸坊 著




養老先生には対談本が多い。医師、建築家や生物学者等々。今回のお相手はイラストレーターの南伸坊さん。お二人の軽妙で洒落た会話が聞こえてくるようだ。お二人共苦虫を噛み潰したような「不機嫌な老人」に対して苦情を呈し、もうこの先長くはないのだからこそゴキゲンにニコニコと過ごすべきと説く。そのコツとして、好きな事をとことんやることが大切だと。世の中の役になんて立たなくていい、何が残るかっていったら「自分」という作品が残るそうだ。作品としての「自分」を完成させるつもりで楽しく生きよとのメッセージをしかと受け止めた。



 養老先生は趣味の昆虫採集に関連して、しばしば虫のスケッチを描くそうである。その際には必ず顕微鏡を用いて標本を観察しながら描くとのことで、「自分の手を使って描かないと。ただ、ボケーっと見ているときにはわからなかったことがわかるんですよ。」「見ているだけじゃ、見てないんです。」などどあって、「ふつうの人は写真を撮って安心するんです。とくに顕微鏡の写真なんかを撮ったら、自分で見ちゃったと思ってるんだけど、全然見てないんです。」と繋ぐ。描きながら認識していく。その繰り返しが解剖学ということらしい。




 なるほど昔医学部の病理学実習や解剖実習では嫌になるほどスケッチを描かされたっけ。ぼくの病理学スケッチ評価はいつも最低ラインだったが、つまりはきちんと観察して描いたものではないということがすぐにバレちゃってたわけだな。絵の上手下手ではなく、学生が特徴的な核の形だとか、細胞の中にある種々の顆粒なんかにきちんと気が付いているかどうかをスケッチで判断していたのだね。



 年を取ってもにこやかで、ゴキゲンに過ごすためには、やはり何か趣味が無いとダメなようだ。でもこれが結構ムズカシイ。定年退職して時間に余裕が出来たらあれもやってみたい、これにも興味があるというのはよく聞くお話だが、多分それでは遅い。「定年後に釣りでも山登りでも一定のレベルで楽しめている人というのは、ほぼ例外なく現役時代から時間のやりくりをして趣味を楽しんでいた人たちだ」と北野武は著書「新しい道徳」で述べていた。定年後に突然始めても遅いのだ。実際にたくさんの老人たちが行く処の当てもなく、かといって財布の中も寂しいので、三々五々図書館に集まってくる現実は、津野海太郎が著書「百歳までの読書術」で紹介していたっけ。


 さあどうしようかな。やっぱり苦虫を噛み潰したような不機嫌ジジイよりはいつもニコニコしている好々爺になりたいから、ぼくも仕事を休んででも趣味のマラソン、旅行、読書と酒に励もうかなあ。許されないだろうなあ。